再生医療科便り(12)〜樹状細胞ー活性化リンパ球療法への道2「見当たり捜査と樹状細胞登場前夜」〜
2018年03月11日
さて、「相棒」というテレビドラマがあります。ずいぶんと長く続いているドラマです。その理由の一つは、人物造形のしっかりした脇役が多くいることにあると思います。捜査一課の伊丹刑事、鑑識の米山さんなどなど。そのような多彩な脇役群の中に「陣川君」という人がいます。捜査一課の経理担当でありますが、正義感が強く、やたらと捜査に首を突っ込みたがります。おっちょこちょいであることが仇となって、誤認逮捕を連発します。とうとう上役の逆鱗に触れて流刑の地「特命係」に配置転換になります。その件が回想シーンとして描かれるのですが、その中で「見当たり捜査は専門家でも難しいんだぞ。それをおまえ・・・」と叱られるところがあります。
「見当たり捜査」とは、聞き慣れない言葉です。調べてみると、五百人以上の手配写真を頭に収めた捜査員が繁華街や駅前に立ち、ピンと来た人を捕まえるということです。これで大丈夫かしらと思いますが、実績を上げていて、誤認逮捕もないと言うことです。恐るべし人間の認識能力。
さて、前号でリンパ球がガン細胞についての人相書きを持っているということ、それぞれのリンパ球は一枚の人相書きしか持っておらず、しかもそれぞれ違うということを記しました。そして、次のように続けました。「このような人相書きを持ったリンパ球が体内をパトロールして、その道中で見つかったガン細胞をやっつけるというストーリーを思い浮かべるのではないでしょうか。かく言う私も最近までそうでした。この筋、ないわけではないようですが、事情はもう少し複雑なようです」と。
この文章を書いている時、思い浮かべたのが「見当たり捜査」という言葉でした。身体の中で見当たり捜査は成就するのでしょうか。相手は何十億個の正常な細胞に潜むガン細胞です。これらを大過なくやっつけることができるのでしょうか。随分と難しい仕事のように思われます。
さて、ふたたび「見当たり捜査」について。この捜査方法がうまくいくのは、おそらく人間の認識能力だけではないと思います。怪しい人が潜むのには適している「場所」を経験的に知っているのだと思います。
もし、当てもなくパトロールするリンパ球に、「ここに怪しい細胞(ガン細胞)がいるよ。特徴はこんな感じ」と教える細胞がいたらどうでしょうか。このような細胞がいたら、ガン細胞をもっと効率的にやっつけることができると想像できます。このような細胞がいるのでしょうか。います。その細胞こそは「樹状細胞」なのです。
次号で、いよいよ樹状細胞の説明に入りたいと思います。
再生医療科 齊籐正二
付記:前号の「この筋、ないわけではないようですが・・・」という文章は、人間が思いついたことは、すでに自然は行っているという直感によるものです。