再生医療科便り(34)〜獲得免疫について12「ジェンナーの時代9」〜
2018年04月13日
ジェンナー(Jenner, Edward, 1749-1823)は、1761年に医学の道を歩み始めます。修行中の1768年頃に「牛痘に罹ったことのある人は天然痘に罹らない」という農民の言い伝えを知ります。
1773年、故郷バークレーにて開業。天然痘予防のために人痘種痘を「実施」したこともあるようです。
1778年、牛痘に罹ったことのある女性に牛痘種痘を「試み」、発症しないこと(一例目)を確認しました。上記人痘種痘との違いは、前者が予防接種という医療行為の一つであるのに対して、後者は牛痘罹患者が天然痘に罹患するかどうかを調べた「実験」と言えます。この試みを通じてジェンナーは牛痘種痘が天然痘予防に効果があると確信したとのことです。
1798年、ジェンナーは牛痘種痘による天然痘予防についての論文を発表しました。すなわち、牛痘という天然痘に比べると軽症で死亡率ほぼ0%(人痘種痘は死亡率2%)にわざと罹らせることによって天然痘罹患を防ぐ事ができることを公にしたのです。
一例目の「実験」から論文発表の間の二十年間、この間ジェンナーは、牛痘に罹ったことのある人が天然痘の流行にさらされた際に発症しなかった「実例」をひたすら「集めて」いたと言われます。
ジェンナーは一例目の実験でおそらく医師としての直感でこれはいけると思ったと思います。直感には裏付けが必要です。ただ、裏付けるすべを当時のジェンナーは持ち得ませんでした。今のようにマウスに代表される実験動物という考えも実体も存在しませんでした。病原体という考えもありませんでした。遺伝子解析のような分析方法もなかった。その状況で、事柄の確かさを確認するには、「同じようなものがないか探していく」という方法しかありませんでした。いまでは疫学として確立された方法をジェンナーは実施したと言えます。しかしこの方法にはどうしても必要なものがあります。時間です。二十年間という歳月です。
ジェンナーの医師としての良心、ハンターから受け継いだ、先見に囚われることなく自分の目で確かめる科学的精神、そして博く集める博物学的態度は、人生の何分の一かの時間をジェンナーに求めました。ひょっとすると自分が生きているうちには日の目を見ることがないかもしれないと考えると、私は頭が下がってしまいます。
そろそろジェンナーから離陸しようと考えています。次のパワーヒッターであるパスツールに移りたいと存じます。しかし未だ私にはパスツールをイメージすることができません。それに病原体という概念がいかに形成されたかを咀嚼できておりません。ですので右往左往の悪文をまた皆様にお目にかけることになりますがご勘弁下さい。
再生医療科 齊籐正二