診察室の風景(3)〜体温計について〜
2018年04月27日
「おーい、ぶら下がってるぞ。測り直せ。」12年前、和歌山県に職を得た頃、よく言われた言葉です。何がぶら下がっているのか。体温計。何を測り直すのか。牛の体温。
写真にあるように、牛をはじめ大動物の体温は、「お尻より」体温計を入れて直腸温と呼ばれるものを測ります。その際、体温計が便と一緒に出ても下に落ちないように、左の写真のように体温計の一方をクリップで尻尾に留めておくのです。ですから、便と一緒に排出された体温計は、尻尾の下で「ぶら下がっているのです」。そしてこのような時、体温は正確に測られていないことが多いのです。だから、「測り直せ」と。
そんなことなら、体温計を突っ込んで、端を手で押さえておけばいいのでは。今では大動物でも体温計は短時間で測れる電子式になっていると思うのですが、自分が仕事をした頃は、水銀体温計でした。水銀体温計は、便利なのですが、測るのに時間がかかるのが欠点です。五分も温度計の端を持って牛の後ろにいるのは、牛が動く限りにおいて、そして蹴られることを考えると現実的ではありません。なので、写真のような測り方になったのです。
ところ変わって、小動物診療の世界。初めて使う体温計はデジタルで、しかも右の写真のように先がクネクネ曲がる。短時間で測ることができ、腸を傷つけることが減り、便利だと思いました。で、どこで体温を測るの。やはり「お尻より」直腸温を測るのです。ここだけは大きくても小さくても変わらないのです。
ということで、次回はなぜ直腸温を測るのかについてお話ししたいと存じます。
副院長 齊籐正二