たいせつブログ

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診察室の風景(5)〜顕微鏡について〜

2018年05月01日

診察室の風景(5)〜顕微鏡について〜

 生き物の世界に関わるようになりまして、一番長いつきあいは顕微鏡でした。最初は大学の解剖学や病理学の実習で標本を観察するのに使いました。この顕微鏡は今病院にある物と同じです。次は、生きた神経を傷つけずに取り出すのに別の種類の顕微鏡を使うようになりました。
 
 その後、病理検査の会社でお世話になり、そこではまた病院で使っているような顕微鏡を使うようになりました。ここで、当時の社長から、いきなり標本を見るのではなく、まずは肉眼で病理の検体(例えば外科手術で取り出した腫瘍そのもの)をよく観察するよう教えられました。どうせ最後には顕微鏡で見たもので診断を下すのですから、肉眼で見る必要もないのではないかと当時の自分は思いました。
 
 それを見越してか、社長は約一年間、切り出しだけをするよう命じたのです。切り出しとは動物病院から送られてきた検体から顕微鏡標本にする部分をカッターで切り出すことです。ここで問題なのはどこを切り出すかです。検体丸ごとを切り出せば、確かに診断は確実になるかもしれませんが、莫大な時間と労力がかかり、動物病院への報告が遅れ、結局の所、患者様に迷惑をかけてしまう。できるだけ早くに確実な診断を下すためには、どこを切り出すかが重要になってくるのです。
 
 例えば大きな腫瘍が送られてきた場合は、ほとんどの場合、腫瘍細胞で一杯の部分と、腐ってしまいバイ菌やそれをやっつける白血球ばかりの部分があります。この時、腐った部分だけを切り出して標本を作り、顕微鏡でのぞくと得られる結果は炎症でしたということになります。しかしながら、本当に必要な情報はどんな腫瘍であるかということですから、腫瘍細胞が集まっている部分を切り出さなければならないのです。生意気にして未熟な私は最初その区別さえつかなかったのです。しかし毎日数百検体の切り出しをしていると、ここが診断の要ということが肉眼でも分かるようになります。同時にそれが良性であるか悪性であるかもある程度判断できるようになります。また、手術者がうまく切り取ることができていない部分も見えてくるようになります。
 
 なぜ、こんな話をしたかといいますと、顕微鏡でのぞく時も同じ事情があるからです。顕微鏡には倍率の違うレンズが普通3種類ついており、弱拡大、中拡大、強拡大という言い方をします。どうせ細かいところを見るのだからいきなり強拡大と言いたいところですが、これだと診断を誤ることが多いです。
 
 まず、弱拡大で見て全体の印象をつかみます。変な言い方ですが、賑やか風景なのか、地味な風景なのか。地味な風景の場合は概ね腫瘍であることが多いです。次に弱拡大で目につくところを中拡大で見て、何かあれば強拡大、なければ弱拡大で標本全体を見る。
 
 このように大きく見てどこを細かく見るか決める。細かく見た結果に違和感があれば元に戻る。
 この往復運動は診療の場面にも見られることです。患者様を見て違和感のある部分を詳しく見る。そしてまた患者様に戻る。
 
 顕微鏡の話が、随分と横道に逸れました。次回は顕微鏡を使って院内で何をしているかお話したいと思います。
 
  副院長 齊籐正二